Sweelinck / The Complete Keyboard Works  

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スヴェーリンクという作曲家の名前を知っている人は少ないだろう。西暦1600年前後、つまり音楽がルネサンスからバロックに移行する時期にオランダで活躍した、オランダ人の作曲家である。オランダで唯一の著名な作曲家と言っていいだろう。いちおう、初期バロック音楽に分類される。かつてのオランダの1000ギルダー札に印刷されていた肖像画がスヴェーリンクである。
スヴェーリンクの鍵盤楽器作品の魅力は、類稀な構成力に支えられた宇宙的な構造的緊張感の持続。ラテン系のように感情の起伏に振り回されずに、ただひたすらに目的に向かって歩み続けるような精神の強さを秘めながら、じっくりと聴き込んで行くと最後には得も言われぬ人間的な暖かさに包まれるような幸福感を与えてくれるという、超人的でありながら人間的な、一貫性と矛盾を同時に孕むような、いわば法華経の宇宙観に通じる不思議な快楽がそこには見出される。
この9枚組みのCDはスヴェーリンクの鍵盤楽器作品が、オランダ人の鍵盤奏者たちによって全曲収録されているという画期的なもの。使用されている楽器はオルガンもチェンバロも、歴史的な名作(あるいはその複製)ばかり。とくに、ヨハネス・リュッカースのチェンバロ(博物館にあるホンモノ!)の音が素晴らしい!
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